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4 楽園へのバプテスマ 【1】

4 楽園へのバプテスマ


「たしかに覗きはいけないことでした。でも、梅川兄弟にお尋ねします。彼の行なっている行為は、聖書の原則に明らかに違反しています。お願いします。今すぐ、止めさせてください」

地下礼拝室の祭壇の前に連れてこられた彩翔は、トキタを指差して梅川洋二に訴えた。

木谷美織から離れ、梅川の前に椅子を用意していたトキタがニヤリと笑う。トキタの目には、どこか人を見下したような冷酷な光が宿っている。それでいていつもなにかを窺っているような表情が、この男の醜悪さを一層際立たせていた。

「これは、わたしが命じてトキタにやらせているんですよ、里見姉妹」と、椅子に座った梅川洋二そっけなく答えた。

「えっ……」

彩翔は絶句した。

アニマ聖書冊子協会の意思決定機関・使徒会議。どんなに奇妙に思える指示でも使徒会議の決定には従う――。それは、アニマ聖書冊子協会のすべての会員が守るべき掟でもあった。

梅川洋二は使徒会議のメンバーで、アニマでは、教団創始者のシン・ニコルに次いでナンバー2の立場にある。教団が経営する医療機関「聖ステファノ・セントラル病院」の院長でもある男だ。梅川の年齢は四十六歳。顔には深い皺が目立つ。髪も大部分が白い。しかし、褐色の肌をした身体は見事なほど引き締まり、いまだに隆々とした筋肉を誇っていた。

彩翔は梅川にいつも嫌悪を抱いていた。アニマの信者の多くが謙遜と評価する梅川の語り口も、彩翔には単なる慇懃無礼なものにしか思えなかった。

梅川はズボンのポケットからボールペンを取り出した。さっきまで彩翔が膣に挿入していた、あのボールペンだった。梅川はボールペンを鼻にあてると、わざとらしくズズッと音を立てて臭いを嗅ぎ込んだ。

(あの部屋は覗かれていたの?……)

彩翔の全身は、羞恥とも怒りとも区別のつかない痺れに染まった。

「里見姉妹……。兄弟・姉妹のなかには、君を『聖少女』と呼ぶ者さえいる。しかし本当の君は、自分の股ぐらで遊ぶことを止められない、恥ずべき淫行少女だ」

「ち、ちがいます……」

やっとの思いで、彩翔が声を発した。

「だったら、このボールペンを使って部屋でなにをしていたか、話してみなさい」

そう言って笑った梅川は、ボールペンを再び鼻にあてると、ズズズッと、さっきより大きな音を立てて臭いを嗅いだ。

「さあ、質問に答えなさい」

切れ長の目尻にうっすらと涙を浮かべて鼻を啜った彩翔は、奥歯を噛みしめた。質問に答えることができない。

「話せないというのなら仕方がない。だが、そうなるとわたしは、君を審議委員会にかけざるを得ない」

審議委員会は、アニマ神に対して罪を犯したと認められる信者を裁くために開かれる私設裁判だった。

「待ってください! どうか、審議委員会だけはお許しください」

審議委員会には、使徒会議のメンバーだけでなく、長老と呼ばれる古参の信者や関係者、そして被告の親族も呼ばれる。被告となった信者は、彼らの前で自らの罪を告白し、許しを請わなければならない。

彩翔も一度だけ審議委員会に参加したことがある。彩翔と仲の良かった十三歳の少女が信者の男と淫行の罪を犯したときだ。少女とその男は、審議委員会で実際に性交までさせられていた。

「だったら、このボールペンを使ってなにをしていたか話しなさい」

「……恥ずべきことをしました」

「恥ずべきこととは?」

「自慰です」

小さな声で振り絞るように彩翔が言った。

「ボールペンを短い時間、股間にあてていただけなのですか? それともあなたの女性器にこれを挿入したのですか?」

「……性器に挿入しました」

「それによって、君は快感を得たのかね?」

「……快感を得ました」

「そうですか。では、君がしたことを、わたしの前でやって見せなさい」

梅川が彩翔にボールペンを差し出した。

(拒めば、審議委員会で自慰行為を実演することになる……)

彩翔はボールペンを受け取ると、おずおずとスカートを捲り上げた。ショーツの股布をずらしてボールペンを陰部に挿入する。

「ボールペンを陰部に挿入して、それからどうするのかね? やって見せなさい!」

彩翔は、薄汚れた天井に視線を泳がせると、円を描くように股間のボールペンを動かした。

じっとりと下卑た視線を彩翔にあてながら、勝ち誇ったように梅川が言う。

「里見姉妹! アニマ神は、どのような目的で女性器を創造されたか註解してください!」

「……子供を産む目的で、女性器は創造されました」

「では、快感を得ることを目的として、自分で自分の女性器を使用することは罪だと思うかね?」

「……罪深いことと思います」

「使徒会議のメンバーとして神から選ばれたわたしには、君のような淫行で穢れた少女を悪魔サタンの手から救い出し、その罪から清める義務があります」

梅川は立ち上がると、彩翔のブラウスに手をかけた。


(つづく)


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